みなさまこんにちちわ。
毎日暑い日が続いていますね。
こんな季節になると、「涼しい高山を歩きたいなぁ」と思う方も多いのではないでしょうか。
そんな真夏の7月18日(土)、今年度第2回となる地域自然情報研究会を開催しました。
今回は、ジオグラフィカル・マインドの吉田直隆さんをお迎えし、「高山の植生と環境 ― GISデータを使った自然環境分類の事例」をテーマに話題提供をしていただきました。
「山にはそれぞれ”雰囲気”がありますよね。」という身近な話から始まり、植生や地形、積雪などのGISデータを使って、その”山らしさ”を客観的に捉えるという、とても興味深い内容でした。
今回は、その内容をご紹介します。

話題提供は、「山にはそれぞれ”雰囲気”がありますよね。」という一言から始まりました。
岩がゴツゴツとした槍ヶ岳と、静かな森に包まれた吾妻山。同じ高山でも、その景色から受ける印象はまったく違います。一方で、白山や鳥海山のように、雪渓のまわりにお花畑が広がる山は、写真だけでは見分けがつかないほど似た雰囲気を感じます。
吉田さんは、「この”山の雰囲気”を数字で表すことはできないだろうか?」という発想から、この研究を始められたそうです。植生や地形、気候など、その山の自然環境が”山らしさ”をつくり出しているのであれば、それらを数値化することで、山の特徴を客観的に整理できるのではないか、という考え方です。
この発想が今回の話題提供の出発点となり、このあと、GISデータを使ってどのように山を分類していったのかが紹介されました。

「山の雰囲気」を客観的に表現するために、吉田さんはまず、山ごとの特徴を数値データとして整理することから始めました。
使ったのは、2024年に全国整備が完了した環境省の1/2.5万植生図をはじめ、標高、気温、積雪、地形、地質などの公的なGISデータです。それぞれの山について、高山植生の割合や標高、積雪の深さ、斜面の急さ、さらには山肌のなだらかさを表す「平滑度」などを数値化し、一つひとつの山の特徴を整理していきました。
こうして整理したデータをもとに、主成分分析やクラスタリングを行うことで、雰囲気の似ている山どうしを客観的に分類していきます。単に山をグループ分けするだけではなく、その結果から地域ごとの自然環境の特徴や違いを読み解こうというのが、この研究の面白いところです。

こうして260の山を比較・分類した結果、山々は環境や植生の特徴に応じて14のタイプに整理されました。
例えば、「槍穂高型」「白馬型」「富士山型」「蔵王型」「西吾妻型」など、それぞれの特徴をよく表す名前が付けられています。同じように見える高山でも、積雪の多さや地形、火山かどうかといった環境の違いが植生に反映され、それぞれ異なるタイプに分類されることが分かりました。
吉田さんは、この分類は単に山をグループ分けすることが目的ではなく、「地域ごとの自然環境の特徴を整理する」という見方にもつながると話されました。14の類型を地図上に並べてみると、地域ごとにまとまりを持って分布する傾向が見られ、自然地域区分への応用も期待できるとのことでした。


さらに興味深かったのは、その14類型を地図上に並べてみると、地域ごとにまとまりを持って分布する傾向が見えてきたことです。分類には山の位置(緯度・経度)を直接使っていないにもかかわらず、結果として中部地方の太平洋側、日本海側、東北地方の脊梁山地など、それぞれの地域の特徴が自然に表れてきました。吉田さんも、「最初から地域で分けようと思っていたわけではないんです」と話されていたのが印象的でした。
そして最後には、この分類結果を自然地域区分へ応用できる可能性についても紹介されました。これまで経験的に捉えられてきた地域ごとの自然環境の違いを、植生と環境データから客観的に整理できるかもしれない――。今回の話題提供は、高山の分類にとどまらず、自然環境を新たな視点で見つめ直すきっかけを与えてくれる内容でした。分類結果を地図上に重ねてみると、さらに面白いことが見えてきました。
実は、この分類では山の位置(緯度・経度)は解析に使っていません。それにもかかわらず、14類型は地域ごとにまとまりをもって分布し、中部地方の太平洋側と日本海側、東北地方の脊梁山地など、それぞれの地域らしさが自然と表れてきたのです。吉田さんも、「260人を性格でグループ分けしたら、出身地ごとにまとまったようなもの」と、ユーモアを交えながら紹介されていました。
さらに、14類型を俯瞰して整理すると、高山・亜高山帯の環境は大きく5つの地域類型として捉えられる可能性も見えてきました。吉田さんはこれを「地理屋の妄想です(笑)」と謙遜されていましたが、植生や環境データから自然地域区分を読み解こうという発想は、とても魅力的で、今後の発展が楽しみになる内容でした。
「山にはそれぞれ雰囲気がある」という素朴な疑問から始まった話題提供でしたが、GISデータと統計解析を組み合わせることで、その”雰囲気”を客観的に表現できる可能性が示されました。データを整理して分類するだけでなく、そこから自然環境の成り立ちや地域性を読み解いていくという視点は、多くの参加者にとって新鮮な気づきになったのではないでしょうか。
話題提供の後には活発な質疑応答が行われ、会場・オンラインともに多くの質問が寄せられました。
最初に話題となったのは、解析に用いた「山頂から半径2km」という範囲の設定です。吉田さんからは、山頂を中心に2kmのバッファを作成して植生や環境データを集計したことや、5kmでも試したものの周辺の環境が入り込み、山ごとの特徴がぼやけてしまったことなど、試行錯誤の経緯が紹介されました。
また、「分類した結果を自然環境の保全にどう活かせるのか」という質問も挙がりました。これに対し吉田さんは、「分類すること自体が目的ではない」としつつ、自然環境を客観的に整理することで、新しい見方や比較の視点が生まれる可能性について話されました。参加者からも、植生と環境の関係や分類の考え方についてさまざまな意見が出され、議論は予定時間いっぱいまで続きました。
最後には、「植生が環境を反映するだけでなく、長い年月の中では植生が環境を変えていくこともあるのではないか」といった意見も交わされ、数値分類の可能性と難しさの両面について考えさせられる、研究会らしい締めくくりとなりました。
今回ご紹介いただいた研究は、現在もさらに検討が進められているとのことです。今回の話題提供では、その一端をご紹介いただきましたが、内容を整理したうえで、後日GCNホームページでもあらためてご紹介したいと考えています。今回の記事では伝えきれなかった部分も含め、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
「山にはそれぞれ雰囲気がある」という素朴な疑問から始まった今回の話題提供。GISデータと統計解析を組み合わせることで、その”山らしさ”を客観的に捉え、新たな自然地域区分へとつなげていこうとする試みは、多くの参加者にとって新しい視点や気づきを与えてくれる内容でした。
今回は、GCN会員14名、一般参加18名の計32名にご参加いただきました。真夏の暑い中にもかかわらず、会場・オンラインともに多くの皆さまにご参加いただき、活発な質疑応答や意見交換が行われたことを、大変うれしく思います。
地域自然情報研究会では、自然環境やGIS、生物多様性をはじめ、幅広いテーマについて情報交換や議論を行っています。今後もさまざまな分野の皆さまからの話題提供をお待ちしております。「こんな研究や活動を紹介してみたい」という方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にGCNまでご相談ください。
次回の地域自然情報研究会も、どうぞお楽しみに。
文責:梶並
