みなさまこんにちわ。
関東は梅雨ですけど、梅雨ってこんな感じでしたっけ?って思うのは私だけでしょうか。

6月30日(日)に実施した地域自然情報研究会の報告です。
今回は、国立科学博物館附属自然教育園下田 彰子 氏から
ナラ枯れ被害のモニタリングからみえてきたこと~自然教育園での5年間の調査より~
というお題で話題提供していただきました。
なお今回は、国立科学博物館附属自然教育園との共催企画で、自然教育園の講義室をお借りして実施させていただきました。

下田さんは、大阪出身で、大学で植生学を学び、コンサル勤務の後、自然教育園に7年前から勤務しています。現在は、調査研究の他、広報、展示、学習支援活動、維持管理などに関わっているそうです。

まずは、ナラ枯れカシノナガキクイムシの基本的な情報から。
意外と聞かないですが、ナラ枯れの正式名称は、「ブナ科樹木萎凋病」だったり。
ナラ枯れ被害は、1930年代からずっと地域を変えながらどこかで起きていることだったり。
あまり実物を見る機会も多くないので、成虫と幼虫の実物(標本)も見せていただきました。

さて教育園ではというと。
2019年4月、葉をつけたまま枯死しているコナラ2本を発見したところから始まります。
後の質疑で、森林総研の方が、通常の発見は枯れてるのが夏にいっぱい見つかったタイミングが多いのに対し、教育園の「4月に発見」というのが、ホントの最初から捉えられた大変貴重な例であるという話をされていました。教育園の管理が、以下に目が行き届いてるかということでしょうね。

その後の対処ですが。
はじめは、フラスが多かった 1 本を伐採、根際ごと採掘・搬出し、もう1本は伐採せず、成虫の拡散を防ぐ目的で、穿孔部分をビニールシートで被覆しました。
さらに、成虫の同定を行い、「カシノナガキクイムシ(カシナガ)」であると同定され、この時点で、「ナラ枯れ」が確定しました。
ちなみに、同時に「ヨシブエナガキクイムシ(ヨシブエ)」も生育していました。ヨシブエは枯れ木につくのに対し、カシナガは生木につくのが大きな違いで、カシナガが問題なのはその点です。
2年目からは、カシナガホイホイとビニール被覆とを試みました。
でも、結果としては、対策があまり効果的ではないではないという結果になり、被害はさらに拡大します。
そして。これ以上の対策は難しいと判断し、モニタリングは継続しながら、拡大防止策はやめて、安全対策の視点から伐採する という風に舵を切ったそうです。

教育園のコナラの個体数は、このような推移をたどっています。
昔から続けている毎木調査によると、1980年代にピークがあり、そこから減少傾向にはありました。
が、ナラ枯れが始まって以降、250本ぐらいあった個体が1/4になってしまいました。

さて、具体的なモニタリングですが。
以下のような方法で、5年間行っています。

モニタリングでわかってきたことをざっくり書くと。。。
・被害に空間的な偏りは確認できない
→まとまりとか、園路からの距離は関係なさそう
・枯死率は、調査3年目(2021年)がピーク、その後は減少傾向
→収束する傾向にありそう
・生育異常と穿孔数には関係なさそう
→枯死に至るのは、穿孔数が多い個体だが、生育異常そのものは、穿孔数に関係ない
・1回穿孔されたコナラすべてが枯死に至る訳ではない
→過去に複数回穿孔を受けてから、枯死するコナラも存在するし、初めての穿孔で生き残ったコナラは、生存する可能性がある
・自然教育園では、太さと穿孔に関係はないと考えられる
→太さにかかわらず、穿孔があった
・穿孔がないコナラ枯死木の増加
→菌類やウイルスなどのナラ枯れとは異なる要因でコナラ枯死が増加している可能性があるかも?
・他の種の被害は軽微
→スダジイはほとんどなく、アカガシ、シラカシ、クヌギなどでは枯死もあったが被害は軽微
などなど。。。

自然教育園は、枯損木があっても、ある程度は許容ができるような特別な場所。だからこそ、ナラ枯れが起きていても、じっくりと観察してモニタリングできたんだろうと感じました。一般的な公園だと、常に対処を迫られるから、じっくりと見るのは厳しい部分も多いと思います。
そういう意味では、とっても貴重で重要な成果なんじゃないでしょうか。

コナラ枯死率の推移

そして。教育園では、薬剤は原則使用しない、モニタリング調査(10~11月)により被害情報を収集する、安全管理上問題があれば速やかに伐採・枝おろしを実施するという方針で管理を進めていますが、管理の難しさもにじみ出ていました。
腐朽が驚くほど早く進み、枝折れ・倒伏が多く発生する上、枯死翌年以降は、登りこんでの伐採が困難だったり。
大枝が落ちたり、根鉢ごとばったり倒れたり。
首都高へ木が倒れたニュースを見た方もいると思います。これも、10月時点では衰弱していたけど着葉していて、それが1月に突然倒れたということで、想定外だったそうです。
どこでも困っているようですが、自然教育園でも、安全対策上、早急な処置が求められるが、ボリュームが大きくなると、費用的なやりくりはかなり厳しいそうです。

ナラ枯れ跡地はどうなってしまうのか?についても少し。
伐採跡付近には、コナラの実生が複数確認されていたり、ナラ枯れ被害のあった武蔵野休憩所にコナラ実生を移植して次世代のコナラを育成していたりしています。
樹冠が空いた後のナラ枯れ跡地は、場所によって状況が異なっていて。
コナラ林に戻ったり。
アズマネザサの草地っぽくなってたり。
カラスザンショウなどの先駆性樹種が優先したり。
あるいは、タブノキなどの違う林になったり。
まだどうなるかはわかりませんが、今後のモニタリングが楽しみですね。

ちなみに、この日は、研究会のあとに現地を案内していただきました。
現地をよく知っている参加者も多く、今後どうなるかとか、楽しいお話ができました。

なお、今回のお話は、「自然教育園報告第52~56号」に掲載された報告、『自然教育園におけるナラ枯れの発生(第一報~第五報)』を、主にまとめたものです。
詳細についてはこちらをご覧下さい。
>>>自然教育園報告

また、今回の発表資料とzoom動画は公開いたします。
ご覧下さい。
>>>発表資料
>>>zoom動画(録画し忘れで自己紹介などのはじめの方がありません(m_m))

さて、今回の参加ですが。
会場24名、zoom23名と、全部で50名近い参加者となりました。
研究会史上、最多でした!
そして、今回からはウェビナーを導入しています。もうミーティングには戻れませんw

下田さま、参加された皆さま、どうもありがとうございました。

文責:梶並